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「新著『23区格差』池田利道著 中公新書ラクレ」
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東京23区のなかで、日頃何気なく歩いたり、電車に乗ったりしている街が、いろいろな顔や表情を持っており、実に多様であると云う事を気づかせてくれる本です。
著者は本組合の専務理事を務めている都市問題の研究者ですが、この本には長年に亘る観察・研究の成果が存分に盛り込まれているために、単なる数値分析だけでは知る事の出来ない深みのある内容になっています。
本書の内容構成は次の通りです。「多極化する23区に生まれる「格差」」を前章として、第1章「23区常識の「ウソ」」、第2章「ニーズで読み解く23区格差」、第3章「年収・学歴・職業が非凡な区、平凡な区」、第4章「23区の通信簿」で構成され、最終章として「住んでいい区・よくない区を見極める方法」で結ばれています。
全体を通して、国勢調査を始めとする信頼度の高いデータを基に話が進められているので、予想外の指摘でも説得力のある内容になっています。
私なりに理解したこの本のユニークな点は、次のような所にあります。
まず、街を生活者の目線で見ている事です。世界のビジネス拠点や我が国の首都としてではなく、そこに住んでいる生活者の目線でみると、子育て、健康、防災、犯罪など暮らしを豊かにするために気になる事は沢山ありますが、これらの事柄に豊富な事例を示しながら、数値を使って納得がいくように説明してあります。
さらに、この視点の延長上で、現在の自分のライフスタイルを見直し、自分に合った環境を選択するための多くのヒント・アドバイスを示してくれています。
格差を個性に変えると云うのが著者の主張の一つですが、駅密度の高さを基盤として全区に商店街網を拡げる品川区、ブルーベリー観光農園とアニメ産業集積を生み出した田舎・練馬区、職人まちの逸品を並べた小さな博物館ネットワークが拡がる「昭和の下町」墨田区など、自分の好みに合った街を選ぶことが出来そうです。
そして、実は23区では子供が増えているのだと云う事実を明らかにし、あるいは、「定住こそが発展の礎」と云った素朴な信仰に疑問符を呈するなど、この本は心豊かに暮らしていくための 洗練された常識を身につけるのに大変役に立つ一冊であると思います。
(2015.12.4)
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「『公共性』について」
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本来地味な筈の図書館に関する話題が賑わっているようです。
話の発端は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者とする武雄市図書館が2013年4月に開館し、当初は大変好評で人気を呼んだにも拘らず、最近いくつもの問題点が指摘され、次いで同じ指定管理者による海老名市図書館でも問題が出て来た事にあるようです。
そして、愛知県小牧市で、同じ指定管理者を予定していた、新しく建設する図書館に関して住民投票が行われ、その結果が「ノー」だった事が鮮烈な印象を世間に与えたようです。小牧市では、住民投票の結果を受けて計画をいったん白紙に戻して再検討する事にしたそうです。
指摘されている問題点として、図書の選定が杜撰である、事業を実施した元市長が系列会社の役員に納まっている、図書の購入先が系列会社である、等の社会常識から見て水準以下の問題もあるようですが、事の本質は、次の2点にあるのではないでしょうか。
1点目は、真の公共性とは何か、図書館の本来の役割は何かと云う点であり、2点目は、真の公共性の実現を誰が、どう担って行くのかと云う点だろうと思うのです。
話題性に素早く反応した週刊ダイヤモンドでは、「新しい図書館」戦争という特集を組んで、武蔵野プレイス、千代田図書館、岡山県立図書館、鳥取県立図書館などユニークな公共図書館の事例を紹介しています。
この特集の中で、図書館アンケートの調査結果が紹介されていますが、私が面白いと思ったのは、「Q 業務の1部を含め、指定管理者制度を取り入れていますか」という問いに対して、「検討の結果、導入しないことを決定」が23.4%もあったことです。
「私が新瀬戸内市立図書館を公設公営にした理由」の中で、武久瀬戸内市長は「人づくり」こそが図書館の重要な役割だと考えて、次のように公設公営にした8つの理由を挙げています。(「出版ニュース」201504)
1)館長候補を建設前に公募・・・基本構想・計画への中心的関与、関連部署との連携
2)持ち寄り・見つけ・分け合う広場・・・時間をかけた議会・市民の議論
3)図書館と公民館、郷土資料館の機能の相乗効果を発揮
4)市民参加の手法を活用・・・9回の対話集会の開催、市民作成タイルの壁面使用
5)ニーズの開拓・・・移動図書館サービスの開始
6)ネットワークの活用・・・他の公立図書館・大学図書館との連携
7)図書館関係者の人材育成・・・図書館分館、学校図書館との連携
8)公設ならではの財政的な支援・・・寄付金の図書館基金への積み立て
コスト削減のための方便ではないかと思われるような、指定管理者やNPOへのアウトソーシングが見られる中で、一方では本格的な取り組みが行われているのが感じられます。
(2015.11.4)
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「『スマート・グロース』と云う事」
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昨年4月にIKEA立川店がオープンし、テレビや新聞でも随分取り上げられ、大勢の人が訪れ、店内は大変な混雑でした。
当初はオープンに伴う周辺市街地の交通混雑が大変懸念されていました。これまで大型店のオープン時には各地で交通混雑が見られており、懸念されるのは当然だったのですが、結果的には、店周辺でも市街地全般でも殆ど混乱はなく、いささか拍子抜けがする位の平穏な幕開けでした。これには、IKEA側による公共交通機関利用の積極的な誘導、自動車交通の混乱回避等に関する3年間に亘る周到な準備と、商工会議所を中心とする地元関係者間での情報の共有等が大きく功を奏したものと思われます。
この成果を知った山陽新聞の記者が立川を訪れて取材をしました。同様の問題が岡山市で起ころうとしていたからです。昨年12月に岡山駅の近くにイオンモールがオープンしたのですが、岡山市の発表によると、こちらでも主要な幹線道路では目立った混乱はなく、駅南地下道の歩行者の通行量は大幅に増えて、休日には以前の90倍に上ったそうです。
事業者側のさまざまな取り組み、地域全体での情報の共有化、等によって公共交通機関への利用転換、道路交通の混乱回避に関する工夫が蓄積されつつあるのを感じます。
しかしながら、これらの取組みは都市の生成発展の全体プロセスの中で見ると、一定の開発が行われる事を前提とした、いわば出口対策として位置づけられます。
出口対策は勿論重要であり、かつ速効性を持っていますが、都市の健全な成長発展を考えるうえでは、入口対策つまり開発のあり方を適切に誘導して行く事も極めて重要であって、入口⇔出口それぞれの対策が両輪になって、スムーズで無理のない成長発展を図って行くのが望ましいだろうと私は思います。
かって、開発事業を都市全体の健全な発展の見地から、適切な開発規模・適切な開発スピードで賢く誘導して行く「スマート・グロース」という考え方が提唱された事がありましたが、最近余り耳にしないようです。どこかへ消えてしまったのでしょうか。
(2015.9.16)
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「ミニコミの役割と『南方圏のひろば』」
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「南方圏のひろば」は、地域の街づくりに関心を持つ人たちによって都城市で1984年1月に創刊されたミニコミ誌です。
創刊以来31年が経った事になりますが、この間に124号まで刊行されています。
このミニコミ誌「南方圏のひろば」は、創刊号以来途切れることなく、2つの所へ送付し続けて来ています。その1つは、国立国会図書館であり、もう一つは住民図書館です。前者については、送付する意味は、容易に理解して貰えると思います。「南方圏のひろば」の各号表紙を見て貰えれば分かるように、ISSN(国際標準逐次刊行物番号)が記されています。
もう1つの住民図書館については、ご存知の方は殆どいらっしゃらないと思いますし、激動の時代を象徴するような存在だったと思いますので、下記の資料を基に生成の歴史を辿ってみたいと思います。
「証言と資料 日本ミニコミセンターから住民図書館まで:丸山尚氏に聞くミニコミジャーナリズムの同時代史 1961-2001」道場 親信、丸山 尚 和光大学現代人間学部紀要 2013/03/19
丸山尚氏は、館長を25年間勤められた住民図書館の中心的な存在ですが、住民図書館の前史的な組織として、1971年3月に日本ミニコミセンターを5人のメンバーで共同設立されています。全国的に住民運動が数多く生まれ、ミニコミが溢れていた時代で、「小さなメディアによる自主的な情報活動と云うものは、日本の民主主義を守って行く上で非常に大事なものだ」として、アンケートの実施、ニュースの発行、ミニコミ集会の開催などを行っています。また同じ月には朝日ジャーナルで「特集 ミニコミ'71―奔流する地下水」という特集が組まれています。日本ミニコミセンターは1973年12月に活動を休止していますが、その精神は丸山氏の中で引き継がれており、1976年4月に日本ミニコミセンター、公害問題研究会、住民情報資料センターの3団体によって住民図書館が設立されます。
住民図書館は、日本各地の市民運動・住民運動や個人の発行するミニコミを収集・保存・公開してきた、市民の手弁当による自立的なアーカイブとして存在してきたものです。
資料の収集、開示を続けながら、会報「ぷりずむ」の発行、シンポジゥムの開催、目録の作成、モントリオール大学へのミニコミ資料送付などの活動が行われていますが、運営の基礎となる人、スペース、財政については、終始課題を抱えており、そのため所在地も、新宿区、千代田区、目黒区、調布市、世田谷区、新宿区、杉並区と目まぐるしく変遷しています。
こうした丸山氏を中心とした人々の情熱によって支えられてきたミニコミ・ジャーナリズム活動でしたが、2001年12月に閉館となり、資料等は埼玉大学共生社会教育研究センターへ引き継がれます。その後2009年3月に埼玉大学・立教大学学長間協定が締結され、現在は立教大学共生社会研究センターで、これらの資料は所蔵・公開されています。資料移管が終わったのは、2012年3月だそうです。
住民運動・市民運動が全国で澎湃として起こって来た1960年代からの社会ドラマを見ているような感じです。
立教大学では、所蔵資料についての検索をインターネットで出来るように既に整備がされています。私が「南方圏のひろば」について検索した所、まだ3号ほど検索できていない冊子がありますが、創刊号以来の大部分については所蔵保管されているようです。
(2015.8.12)
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「コミュニテイサイクル」
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道路交通の混雑や環境問題を背景にして、少しずつ、少しずつ都市の中での自転車利用が増えて来ているように見えます。
国土交通省では、毎年「全国コミュニティサイクル担当者会議」を開催していますが、今年で第5回になるのだそうです。
この会議で報告されたコミュニティサイクルの取組動向によると、平成26年11月1日時点で本格導入されている都市は72に上るそうです。
前年度の報告では、平成25年12月1日時点で本格導入されている都市は54だったそうですから、急増していると云って良いと思います。
本格導入都市の分布も北海道から九州まで広く全国に拡がっており、都市規模も大は政令指定都市の横浜市、京都市、札幌市等から、小は大分県玖珠町、和歌山県串本町、福島県檜枝岐村までさまざまです。
これらの導入都市における平均的な設置規模は以下の通りとなっています。
平均自転車台数 169.7台、平均ポート数 8.1ヶ所、 1ポート当り平均自転車台数 26.7台/ヶ所。
また、利用状況について見ると、日平均利用回数 96.8回/日、平均回転率 0.4回/台・日 となっています。
この会議で報告された海外の事情によると、パリをはじめ、ニューヨーク、バルセロナ、メキシコシテイなどの都市では、設置台数も可なり多いようです。そしてポート密度が高いほど利用回数は増加する傾向が見られると云う事です。
私も異国情緒あふれる都市を背景にして、電動で、ナビの付いたレンタサイクルの写真を見た時は、心が逸る気分になりました。
チャリの世界は急速に広がって行くのではないでしょうか。
(2015.6.17)
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「プレミアム付商品券」
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昨年の暮れに緊急経済対策が閣議決定されて、「地域住民生活等緊急支援のための交付金」が実施される事になり、国の支援を受けて地方公共団体がプレミアム付商品券を発行すると云う動きが急に賑やかになって来たような感じです。
各地ともまだ詳細は確定していない状況のようですが、単年度事業ですから秋口からスタートして、年内一杯ぐらいで終了になる位のスケジュールのようです。
この事業は生活等の緊急支援を目的にしているものですから、プレミアムの魅力によって消費が拡大すればそれで良いのかも知れませんが、県や市が実施するものである以上、地域商店街の活性化に結び付ける事が出来ればと云うのが、地元自治体の思いのようです。
これまでもプレミアム付商品券は、各地で、さまざまな形で発行されて来ていますが、全般的に地元商店街で消費される割合は低く、主な買物先は、スーパー、デパート、大型家電店、ホームセンターなどで、総額の8〜9割を占めているようです。
このような状況の中で、地域商店街の活性化に結び付けようとするのならば、@地元で買い物をしやすい商品券にする、Aこの事業は一過性の事業なので、拡大された消費行動が継続的に地元で行われるようにする、事を戦略的に仕組んで置くのが重要だろうと思います。
地域活性化を実現するためのシステム設計はどうあればよいのか、例えば、@に関しては、小口の商品券を含めておく、商店街専用券を発行する等、またAについては、スポーツ・クラブの利用、カルチャー講座の受講などに使えるようにしておく事などが挙げられそうです。
これから各地で知恵が絞られる事になるのでしょうから、どんなユニークな事業が出て来るのか暫らくは楽しみです。
(2015.3.28)
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「我が国の将来人口について」
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アベノミックスの次の展開として、地方の活性化を図る「まち・ひと・しごと創生」が始まるようです。
従来のトレンドの踏襲だけでは、旨く行かないと云うのは誰もが考えていると思いますが、では抜本的な政策が展開されて、本当に住み易い社会が実現できる事になるのでしょうか。
基本となる将来人口について、こんな事を考えています。
*総人口について、国の長期ビジョン2060年に1億人程度の人口を確保する長期展望が提示されているそうです。
総人口については、目標として設定するというのは不適切であるし、ストレスのかかる話になるので、結果としての数値になるべきだろうと思います。明治初期には、わが国の総人口は約3,000万人だったようですが、私は感覚的には将来の総人口は6,000万人位が妥当ではないかと云う気がしています。敷地規模10数坪と云う過小宅地も解消できるでしょうし、自然的土地が豊かになり、山の動物との棲み分けも出来るでしょう。どれ位の人口規模をイメージするかによって、国土のあり方が随分変わったものになりそうです。
*もう一つ気になるのが人口の地域分布です。平成22年時点で東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)には、3,500万人以上、全国の27.8%の人口が居住しており、しかもまだ増え続けているようです。私には、この現象は、さまざまな地域間格差があり、そのために人が移動して行く、いわば中進国型のパターンではないのかと思っています。
かっては、高等教育機関の集中、急成長をとげる第2次・第3次産業の雇用機会の集中等のプル要因、農村部での過剰人口等のプッシュ要因があって、これらの底流が長年に亘る大都市地域への人口移動を招き、現在の地域分布を形成したのだといえます。
今、地方分散をプッシュするような底流を作れるのでしょうか。とてもではないが、補助金・交付金や地域交流の促進のようなレベルの問題ではない様な気がします。
もしそうならば、何か別の視点に立った新しいアプローチも考える必要があるように思います。
(2015.1.22)
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